
CONVERSATION
在学生×修了生×教授のスペシャル座談会
総合学術研究科で養える力とは
SPEAKER
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教員 田中義人 教授
総合学術専攻 -
在学生 内田美重さん
23年度博士前期課程入学 -
修了生 澤田和宏さん
19年度博士前期課程修了
大发体育官网_澳门游戏网站 総合学術研究科に
進学した動機を教えてください。
内田:大学院に入る以前は東京で働いていましたが、夫の転勤に合わせて仕事を辞め、愛知に引っ越してきました。新しい土地で何をしようか考えたときに、学生時代にフードビジネス学科で食品や経済について学んだ延長で、もう少し学びを深めてみたいと思いました。大学院をいろいろ調べたところ、本研究科の景山教授の研究に興味をもち、社会人コースがあって学びやすい環境だったこともあり、入学を決意しました。
澤田:私は大发体育官网_澳门游戏网站理工学部の出身です。子どもの頃から生態系や環境に興味があり、卒業論文では植物生理学分野の研究で田中教授にお世話になりました。論文作成が終わっても知りたいと思うことは尽きず、大学卒業後も引き続き田中教授のもとで学びたいと思いました。
田中教授:本研究科は学部を基礎としない独立研究科のため、学部生の卒業論文を指導することは稀ですが、澤田くんとはたまたまご縁がありました。学部から進学してくる学生だけでなく、内田さんのような社会人入学者が多いのは本研究科の特徴です。


それぞれどういった研究に
取り組まれていますか?
澤田:修士論文のテーマは、「藻類およびシアノバクテリアの環境ストレス応答に関する研究」です。藻類は塩濃度が高くなると、ストレスで脂質を溜めることがわかっています。この脂質はバイオ燃料として使うことができ、枯渇性資源の代替として注目されています。そこで私たちの研究室では、どれくらいの塩濃度であれば生育と脂質の蓄積の効率が良いのかを研究しました。
内田:私は、清らかな淡水に生息する希少な藻「スイゼンジノリ」に含まれる紫外線吸収物質の生合成プロセスに関する研究をしています。この紫外線吸収物質は、天然のスキンケア成分として化粧品への応用が見込まれていて、光や温度など、どのような条件下でより多く生成されるのかを調べています。「スイゼンジノリ」は「シアノバクテリア」の一種ですので、澤田さんの研究と似ているところがありますね。
田中教授:澤田くんの研究は脂質に注目していますが、私の研究はそれ以外にも微生物が環境ストレスにどのように適応しているのかを遺伝子レベルで解析しています。最近では、海の環境修復や水産資源調査に取り組まれている特任教授の先生方に感化され、水中に存在する環境DNAの遺伝子解析にも着手しています。

総合学術研究科で学ぶ魅力は
どんなところにありますか?
田中教授:研究科の名前として「総合」と掲げているように、文理の枠にとらわれないさまざまな分野の先生、学際的な研究が集まっているところが魅力的だと思います。また、本研究科は、指導教員のほかに副指導教員を2名配置する手厚い指導体制をとっています。修士論文の作成過程では、春と秋に教員全員が集まって院生の研究発表を聞くプログラムもあり、文理を融合した総合的な知見を得ることができます。
澤田:院に進学したら、研究分野に特化して専門性を深めていくことをイメージしていましたが、実際は専門分以外の講義も多く、学部生の頃よりも学びの範囲が広がりました。自分の専門以外に語学や心理学、健康科学、スポーツ科学、薬学など、広い知識?視点を得ることができ、あらためて学ぶことの面白さを感じました。
内田:先生方とのディスカッションが楽しいですね。例えば、「総合学術特論」という講義では、最後に自分で選んだテーマについて発表をするのですが、さまざまな分野の先生方から想定外の質問をいただくので、ディスカッションをしながら学びを深めることができます。
田中教授:「総合学術特論」では、各先生がオムニバスで講義を担当して話題を提供し、院生がそこから自分の興味あるテーマを定めて発表をします。質疑応答では、専門分野の異なる先生方から思いがけない質問が飛び出すことも多く、私たち教員も新たな気づきを得られます。

今後、取り組んでいきたいことを
教えてください。

内田:前期は集中して授業をとったので、後期からは修士論文の研究に専念したいです。「スイセンジノリ」を純粋培養する試みをはじめていますが、すごく難しいんです。ただ、本研究科は研究環境が整っていますので、これからは研究を着実に進めて、何か新しい発見ができればとワクワクしています。
澤田:私は本研究科を卒業後、本学の職員として働いています。最初に配属された学術研究支援センターは、先生たちの研究活動の支援が主な業務で、自分が研究してきた経験を大いに生かすことができました。

今年度からは学務センターで働いていますが、今度は学生の支援に従事し、母校の力になりたいと思っています。
田中教授:新しい学問領域、新しい研究課題に果敢にチャレンジし、私たちの研究が社会にインパクトを与えられるものになればと思います。教員としては、院生が専門分野の力量を上げるサポートをするのはもちろん、広い視野を獲得できるよう、学びの場を提供していきます。

異なる分野の研究のご紹介
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ラン藻の生き方を知り、利用する
景山伯春研究科長
研究テーマラン藻の環境適応機構の解明と産業利用
景山伯春 研究科長
ラン藻(シアノバクテリア)という植物プランクトンをご存じでしょうか?ラン藻は地球上の至るところに分布しており、中には砂漠や塩湖などの極限環境でも生育できる種が存在します。私たちは、ラン藻がどのようにして様々な自然環境に適応できるのか、その仕組みを明らかにするために研究しています。また、このような基礎研究に加えて、ラン藻がつくり出す有用物質の探索にも力を入れています。最近では、福岡県朝倉市の黄金川にしか自生していない「スイゼンジノリ」という日本固有の食用ラン藻から、環境ストレス応答性の新奇な紫外線吸収物質を見つけました。サンスクリーン剤など、天然由来の化粧品原料として利用できる可能性があり、目下研究中です。
当研究室では、新しいことにチャレンジしたい方を応援します。未経験でも問題ありません。意欲的な大学院生の参加をお待ちしています。実験風景
スイゼンジノリの培養
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研究テーマ
多様な社会に合わせた心理学的支援に関する研究
志村ゆず 准教授
現在取り組んでいる研究テーマは、主に三つあります。1.高齢者の心理学的支援、2.人生の歴史を聴く取り組み、3.支援者支援になります。1.については少子高齢化社会の中で、高齢者と取り巻く人々の心理学的健康や支援について研究を重ねることは、社会全体の心の健康につながると考えています。これに関しては、レミニッセンス?セラピーという心理学的支援の方法を開発したり効果を検討したりすることについて、現在まで研究を重ねています。2.については、難民支援や社会的に生きづらさを抱えている人々について、心理教育的側面からアプローチすることを考えています。具体的にはストレスの多い災害状況から心理的に復帰していくための方法について考えることです。やはり人生の歴史を聴くという取り組みはアイデンティティを強化し自己肯定感を高めるための支援だと考えています。人生の歴史を傾聴することは、心の回復を促す一つの手がかりではないかと考えています。3.では、何も対策のないまま、心の状態が深刻な人の支援を行わざる得ない人の支援です。どのような備えを持ち支援者ストレスの対策を行うことが大切かを考えることで、共助の姿勢につながるものと考えられます。以上が私の研究の紹介になります。どうぞよろしくお願いいたします。
回想の手がかりになる写真例(夏の空)
回想の手がかりになる写真例(田圃)
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研究テーマ
子どもの運動?スポーツの未来を拓く
香村恵介 准教授
当研究室では、子どもたちが生涯にわたり運動?スポーツを楽しむことができるように、子どもの身体活動や運動能力に関わる研究を進めています。
2023年度からは、笹川スポーツ財団と「全国の幼児を対象とした運動実施状況に関する調査研究」を開始しました。日本の幼児の基礎データを明らかにするとともに、縦断的な全国調査に発展させていく予定です。また、理工学部の研究室と共同し、加速度計を用いて1~2歳児の身体活動量や行動パターンを測定するための研究も行っています。
他にも、町内会単位で公民館を活用して幼児の運動遊びを展開する取り組みも進めています。子どもの運動発達が促進されることはもちろん、子育て世代の交流が促進され、人と人とがつながる豊かな社会の実現に貢献できる可能性があります。
心も体も活力ある子どもたちを育むことは、日本の、そして世界の未来をつくることにつながると考えています。加速度計を装着している場面
モールの空き店舗を活用して子どもの運動遊びをしている場面
詳細な研究実績はこちらから→
https://k-komura.jimdofree.com/ -
画期的な抗うつ薬の開発を目指して
衣斐大祐准教授
薬学部 准教授 / 総合学術研究科 准教授 / 薬学研究科 准教授
分子神経薬理学
研究テーマ難治性うつ病治療に関わる神経基盤に基づいた創薬を目指して
衣斐大祐 准教授
うつ病は気分が落ち込んだりする症状が長期に続き、日常生活に大きな支障を来す精神疾患です。現在、日本で承認されている抗うつ薬による治療では効果発現までの時間が長いこと、再発率が高いことなどの問題を含んでいます。最近、マジックマッシュルームの幻覚成分「シロシビン」が難治性うつ病に対して、即効かつ持続的な抗うつ効果を示すことが報告され、世界的な注目が集まっています。しかしながら、シロシビンの抗うつ効果に関わる脳機構は未だ不明です。我々の研究グループはマウスを用いた研究から、シロシビンの抗うつ効果に関わる神経基盤を発見しました。その神経基盤の活動を人工的に操作することで抗うつ行動を制御でき、また神経活動を可視化すると、シロシビン投与によってその神経系が活性化していることが分かりました。今後は我々が発見した神経基盤を標的とする新たな抗うつ薬の開発を進めています。
図1:うつ病の約30%は適切なうつ病治療を行っても、緩解しない治療抵抗性(難治性)うつ病とされています
図2:シロシビンの抗うつ作用に関わる脳基盤
我々の研究結果から、シロシビンはある特定の脳領域に存在するセロトニン受容体に作用し、抗うつ作用を発揮することが示唆されました。 -
研究テーマ
シアノバクテリアによるCO2を資源としたエチレン生産
SDG 'sの分類 13気候変動対策
神藤定生 准教授
現在の社会はプラスチック製品の大量生産によって支えられています。このため、その原料となるエチレンは極めて重要な工業用ガスでありますが、ナフサを由来とする既存のエチレン製造はエネルギー大量消費型プロセスである事が知られています。いっぽう、資源枯渇や気候変動などの課題が顕在化するなかで、CO2削減や脱石油依存社会の実現は喫緊の課題であります。そこで、我々は石油に由来せず、光と大気中のCO2で光合成するシアノバクテリアに合成酵素を導入し、CO2をエチレンへ変換できる革新的なエチレン生産系を開発しました。既存のシアノバクテリア株は1日かけて12gのエチレンを合成するものの1回しか生産できず生産効率が低かったが、本組換え株では、7日間連続(7.2 g/day)でエチレン合成をすることができ、4.2倍に生産効率が改善し、実用化に大きく近づきました。