特設サイト第104回 漢方処方解説(56)竹如温胆湯

今回ご紹介する処方は、竹如温胆湯(ちくじょうんたんとう)です。 12世紀の「太平恵民和剤局方」に収載された処方で、エキス製剤の添付文書でも「インフルエンザや風邪、肺炎などの回復期になっても熱が長引くものや、また平熱になっても気分がさっぱりせず、咳や痰が多くて安眠できないものに用いる」とされています。言わば、風邪をこじらせて、咳が続き、それによってよく眠れないという場合に有効な処方です。

竹如温胆湯

構成生薬としては、半夏(はんげ)、柴胡(さいこ)、麦門冬(ばくもんどう)、茯苓(ぶくりょう)、桔梗(ききょう)、枳実(きじつ)、香附子(こうぶし)、陳皮(ちんぴ)、黄連(おうれん)、甘草(かんぞう)、生姜(しょうきょう)、人参(にんじん)、竹如(ちくじょ)の13種類が配合されています。

竹如

竹如(ちくじょ)

配合生薬の中では、竹如があまり聞いたことのないものだと思います。竹如は、イネ科のハチクやマダケの稈(かん)の外側を削り取った内層を用いるもので、解熱や止血、鎮咳、安胎に応用するとあります。配合される処方は、本処方以外に清肺湯(せいはいとう)や加味温胆湯(かみうんたんとう)、温胆湯(うんたんとう)の4つです。

興味深いことに、古代中国においては「胆」が冷えると眠れないと考えたそうで、この「胆」を温めるのが温胆湯です。もちろん、この「胆」は現代医学的な胆嚢ではなく、五臓の「肝」を助け、精神安定や決断に寄与する六腑である「胆」のことで、「彼は肝っ玉が大きい」とか「胆(きも)が据わっている」などの「胆」です。

本処方は、夜間の咳とそれによる不眠が続いているときに有用で、とくに咳き込むような強い咳がでるときによいとされます。また、咳とは関係なく、不眠の場合にもよいとされますが、そのときには遠志(おんじ)や酸棗仁(さんそうにん)といった精神安定作用のある生薬が配合される加味温胆湯のほうがよりよいかもしれません。一方で、竹如温胆湯は不眠がなくても咳などの気管支症状を対象にして用いることができます。さらに、こじらせた風邪で長期間過ごされていますので、「気」の消耗もあり、脾胃が弱っていることも多く、胃の症状を訴える方も少なくないと言われます。

痰のからむ咳には、麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう)や五虎湯(ごことう)、小青竜湯(しょうせいりゅうとう)なども用いられますが、これらの処方には麻黄が配合されており、気管支拡張作用を示す一方で、交感神経を興奮させる作用もあり、不眠をもたらすことがあります。また、麻黄配合処方は高齢者や循環器系に既往歴のある方、甲状腺機能亢進症の方などには使いにくいので、麻黄を含まない処方として、この竹如温胆湯を知っていることは治療の選択肢が一つ増えることになると思います。

(2023年12月1日)

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