大学概要【2021年度実施分】歴史文化?近代遺産を活用した市街地?コミュニティ活性化プロジェクト

学部?部署共同

【理工?都市情報学部】歴史文化?近代遺産を活用した市街地?コミュニティ活性化プロジェクト
実施責任者:米澤 貴紀

活動概要:本プログラムでは、建物や都市、景観の調査や住民と共にワークショップを行い、その成果に基づいた地域とコミュニティの活性化案を学生が主体となって検討?具体化する。また、参加学生が、プロジェクトの企画から成果の発表?提案までを一貫して体験し、実社会と関わる活動の楽しさ、面白さを実感できる教育研究プロジェクトである。本年度は、岐阜県郡上市を対象として歴史や地勢、まちなみや村落景観、人々の生活等を考慮した、その地域ならではの提案を作成する。そして、異なる学部?学科の学生が共同で取り組むことによって、多様な見方や価値観を実感し、視野を広げることも目指している。

ACTIVITY

現地活動に備えての合同ゼミ(7/7、7/21)

2021/12/03

7月7日のゼミの様子。遠隔でもスムーズに打ち合わせができました。

7月7日に、郡上市での現地活動に備えて都市情報学部都市情報学科 田口研究室と理工学部建築学科 米澤研究室での合同ゼミを行いました。2研究室をつなぎ、オンラインでの開催としました。
はじめに、参加メンバーの紹介をして、その後、活動を行う郡上市八幡北町伝統的建造物群保存地区と白鳥町石徹白地区の概要の説明をし、希望する活動場所を考えてもらうことにしました。また、現地に入る前に事前に調べて考えておくことについても話し合いました。

7月21日のゼミでは、まずはじめに本学名誉教授の海道清信先生に郡上市の紹介、市によるまちづくりの取組についてご教示頂きました。つづいて、現地活動について、スケジュールや持ち物などの説明を行いました。
その後、参加したいグループに分かれて、それぞれ現地で行う取組、課題についての説明、話し合いを行いました。これを踏まえて、準備と事前学習を進めていくことになります。

郡上市八幡町での活動(8/17,18)

2021/12/03

八幡町での活動は、「まちなみを活かしてつくる移住促進の拠点」を課題として取り組みました。
【活動内容】
八幡北町では強い雨の中でしたが、まず以下の活動を行いました。
?町中を実際にあるいて良さと問題点を発見する
?市の職員の方から伝建地区について、その歴史と現在のまちなみ保全の取組についてレクチャーを受ける
?現地で空き家問題に取り組んでいる武藤隆晴氏によるレクチャーにより、町の現状を知る
?現地でのこれまでの活動についての資料を閲覧し、学習する
?町の人へのインタビューや、観察を通して情報を収集する

そして、得られた情報を元に、2日目の午後に提案作成の作業を行いました。課題テーマである「移住の促進」のためには、住民の生活の利便性の向上が必要と考え、そのための提案を作成することにしました。

まず、調査で各自が感じたことを出し合い、「コミュニティ」、「暮らしやすさ?移動」、「興味を持たせる?空き家活用」の3つに分類し、それぞれの要素を併せ持つ提案として、
《ミニ商店街計画》…住民の生活の拠点、町のランドマークとしての役割を果たすものを作る
《まめバスのバス停デザイン計画》…現在のバス停に無い屋根を造り陽よけや雨宿りできる場所を設け、健康的な利用を提供し、また小さなコミュニティを作る役割も担う
《シェアサイクル》…現在町が取り組んでいる車利用の抑制にもなり、環境問題解決への取り組みとなる
の3つを提案することにしました。
 
現地でのレクチャーや調査では、次のような学びを得られました。
?郡上八幡の歴史や文化、空き家を活用した取り組みの事例などの知識をインプットしながら、実際に自分の目で町を見ることで、一から自分たちで問題点を見つけ、新たな提案をするための方法を学ぶことができました。そのなかでも、ただ単に問題を解決するのではなく、主なユーザーである住民に寄り添った提案を意識するところや街歩きをする上で注目すべきところや重視すべきところを見極める難しさを学びました。


?もともと移住促進のための提案としてのイメージをしていたが、観光者向けと住民向けの提案は全く違ったものになると気づいた。
?「移住」のテーマは簡単そうに見えて難しい。観光では明るい側面しか見えないが、「移住して住む」視点から見れば、不満な点も多いと気付けた。
?天候に左右されるが、天候によって見えてくる景色が違うので一概に「晴れ」だけが良いとは言い切れない。
?客観的視点も必要だが、主観的視点の肌感覚も視方の一つ。
?同じ集団で視るよりも、他の集団と視た方が新しいアプローチの視点を得られる。
?町だけでなく、町を作る住民たちの話から需要が見える。
?伝建地区の条例や、残したい歴史や文化があるため、環境の整備に制限があり、移住してくる人も選ばれることになる。こうした地区ごとの条件があり、それぞれに対応する必要がることを学んだ。
?住民の方々は「あるものをそのまま活かしたい」という精神があり、建物だけでなく、営みも守らなければならない。観光とのバランスが重要である。
?観光客が求める便利になってほしい点と、住民として改善してほしい点にかなりギャップがあることを学んだ。町の発展には観光客の誘致は重要な要素であるが、観光客の増加により、住民の生活が阻害される例は多くある。その2つを両立させるような落としどころを見つけることが、今回の調査のなかでも重要であると感じた。
?学んできた事柄が違う人と課題を進める難しさも学ぶことができた。それぞれで主として考える場所が違うため、その折衷案を考えることに時間がかかってしまい、自分自身もうまく取りまとめることが出来なかった。
?町の人々が自分の街の魅力をよく理解しているから観光都市となっており、現在町に起こっている問題を的確に理解して、行動していることも学んだ。
 
また、2学部合同での活動を通して、自分たちの普段の大学での学びに改めて強く意味を見いだせたようでもあった。
同じ「都市」を対象とする分野であっても、ソフト面からアプローチする都市情報学部と、ハード面からアプローチする建築学科では強みが異なり、お互いの有用性を実感できていた。同じ大学の他学部との合同活動は、学部間の違いを知るいい機会であり、固まりがちな視点がほぐれる感覚と学部で触れたことのない知識は、自身の学部の学習に戻っても無駄にはならないという参加者の意見がそのことをよく示しています。

現地にて調査開始前の打合せ

雨の中、まちなみを調査

市役所の方からのレクチャー

武藤氏によるレクチャー

郡上市白鳥町石徹白地区での活動(8/17,18)

2021/12/03

石徹白地区では、「石徹白の文化や移住者の考えに触れ、そこから学んだこと、魅力を伝える」ことを主眼に置いて活動しました。事前のミーティングでは現地の方ともお話をし、参加者それぞれの興味があること、石徹白で楽しみたいことなどを引き出し、各自がテーマ?視点を持って石徹白に入りました。
石徹白地区は、日本三霊山の一つ白山の南山麓に位置し、人の定住は縄文時代からとされる長い歴史を持つ集落です。白山に登拝する多くの修験者の拠点として、白山信仰と共に栄えてきました。近世には神に仕える人が住む村としてどの藩にも属さず、年貢免除?苗字帯刀が許された独特な村です。住民は社家?社人がおり、社家は、夏は修験者や白山参詣の道案内と宿坊を営み、冬は「御師」として各地に信仰を広め御札を配ることを生業としていました。現在は、白山信仰のほかにも、自然エネルギーによる地域の独立を目指し、小水力発電での自給率100%超えや、標高約700mという土地を生かした特産品のとうもろこしなど、自然の恩恵で暮らしを営んでいます。


【活動内容】
1日目は白山中居神社,石徹白の浄安杉に伺い全員で白山を感じました。白山中居神社は景行天皇の時代にイザナギ?イザナミノミコトを祀ったのが始まりとされています。白山頂上と長滝白山神社の中間地点にあるので、白山中居神社と名付けられました。白山中居神社の背面には「浄安杉」があり、ブナ原生林とともに県の天然記念物となっています。
2日目は午前にそれぞれのテーマに合わせて現地の方にお会いし、お話を伺い、午後に全員で振り返り、各自で経験したことの共有をして、最終プレゼンに向けての資料作成、準備をしました。
 
現地では、小さな拠点を作り出している人、思いたったことを行動に移している人に焦点を当て活動しました。活動では、石徹白洋品店を営み、地域に残る伝統文化の継承を実践している平野馨生里さんと、特定非営利活動法人地域再生機構副理事長で小水力発電を実現させた平野彰秀さんご夫婦、加藤健志郎さん(地域おこし協力隊)という、石徹白に移住して活動なさっている方々にお話を伺いました。そこで分かったのは、軸のある人に自然と人が集まる、そして小さな拠点が自然と作られていくということです。また、集落の方たちはそれぞれ自らの力で生活する術を持っており、結(ゆい)の精神でお互いに助け合っているということが発見できました。何かをやろうとした人に協力してくれたり、子供を地域全体で見守ったり、強い個性が結びつく地域だということが分かりました。

白山中居神社を見学しました

平野ご夫妻からお話しを伺いました

石徹白で使われた民具について説明して頂きました

地域の方とも一緒にまとめの作業を行いました

現地活動での合同発表会(8/19)

2021/12/03

現地活動3日目の8月19日には、八幡北町と石徹白地区、それぞれでの活動の合同発表会を行いました。会場は国登録有形文化財となっている旧郡上八幡庁舎記念館(1936年建設)です。発表には市役所の方や住民の方にもご参加頂きました。それぞれの発表は次のようになりました。
 
八幡北町グループは、「まちなみを活かしてつくる移住促進の拠点」という課題設定に対して、移住をしてもらうには、住民の住みやすさが重要であると考え、現在の町に足りないものを加えて生活がより良くなる施設?仕組みの提案を作成しました。それは次の3つになります。


○ミニ商店街計画
現在、町の中には日常の買い物をするところが見当たらないこと、町の中で人びとが集まれるランドマークが無いことを発見しました。かつて栄えた通りも時代の移り変わりとコロナ禍で衰退してしまったとのことでした。そこで、一棟の建物を建設し、そこにもう一度住民の皆さんが日常で集まるミニ商店街を作る計画を提案します。商店街には、生活用品や食材、季節の品々などを買える店をブースのように展開する計画とし、人びとの憩いの場となるカフェスペースも作ります。あわせて、移住相談所も設けることで、移住希望者は住民の日常を見ることができ、また直接話を聞くこともできると考えました。
建物の外観は伝建地区のまちなみに合わせたデザインとし、町のシンボルとも言える「水」も建物前面に水場を設けて取り入れています。

○まめバス バス停デザイン
町中を走るまめバスの観察から、地域の高齢の方もよく利用しているようでした。しかし、現在のバス停は看板があるだけで、陽射し避け、雨除けの機能はありません。そこで、屋根付きのバス停とすることで、安全に健康的に利用できるようにしようとする計画案です。今回は停留所に比較的スペースのある場所向けに考えたデザインのみですが、町内に多くある狭い場所向けのデザインも今後考えます。


○シェアサイクル?システム
町内には、道路幅が狭く人や自転車の往来が危ない箇所が多くありました。更に自家用車が多く使われている現状は、騒音や排気ガスにより郡上八幡の「みずの町」というエコなイメージが損なわれてしまうと考えました。そこで電動バイクをシェアする仕組みを提案します。電動バイクは、電動アシスト付き自転車とは違って漕ぐ必要が無く、運べる荷物の重さも大きくなることから、自家用車の代わりとして使ってもらうには良いと考えて選択しました。自家用車を普段使いしている人を主な対象として、近隣の移動には電動のバイクを利用してもらうことで住民の安全や町のイメージと環境が良くなっていくことを期待する計画です。
 
石徹白地区グループは、石徹白の文化や移住者の考えに触れ、そこから学んだこと、魅力を伝える活動を行い、そこから得られた発見と気づきを次の10個のキーワードにまとめました。
1.軸のある人に自然と人が集まる
2.行動が生み出すキセキ
3.強い信仰心からくる偶然の交流
4.信仰心を語り継ぐ仏像たち
5.めぐる活力
6.子どもが子どもらしく成長する環境
7.強い個性が結びつく地域
8.人々に恵みをもたらす水
9.受け継がれていく白山信仰の心
10.柔軟でオープンな文化
これらのキーワードは、私たちがわずかな調査期間のなかで、石徹白の文化や生活、精力的に日々の活動に取り組んでいる人たちから学んだ、石徹白の魅力、今後取り組むにあたっての大切なことです。これを心に、今度は自分たちが活力のある人になり、また石徹白に戻って活力を与えることができるように、めぐる活力を実現するようにしたいと考えます。
 
発表後、市役所職員と住民の方々にご講評をお願いいたしました。どちらの発表に対しても、好意的で温かいお話、感想を頂けました。それに加えて、より展開させた方が良いというご指摘や、より深い活動を期待するご意見も頂戴しました。大学に戻ってから、頂いたお話を踏まえて提案?発表をプラッシュアップして、年度末を目標に郡上の方々に提案をご覧頂けるようにしたいと考えています。
改めて、今回の活動にご協力下さった皆様に御礼を申し上げます。

八幡北町グループの発表

石徹白グループの発表

発表会に参加して下さったみなさまと記念写真

会場の旧郡上八幡庁舎記念館

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