大学概要【2019年度実施分】「脱炭素社会」に向かう新しい地域経済への挑戦-先進地域から地域資源を利活用した新しい地域政策を構想する-

経済学部

「脱炭素社会」に向かう新しい地域経済への挑戦-先進地域から地域資源を利活用した新しい地域政策を構想する-
実施責任者:井内 尚樹

本プログラムでは、「脱炭素社会」に向かう新しい地域経済への挑戦をテーマに、先進地域から地域資源を利活用した新しい地域政策を構想することを目的としている。本プログラムによって、ローカルベンチャー、地方自治体などとの連携によりながら、地域雇用増の取り組み、新しい地域経済政策を学生が「現場」で学び、「あたりまえとなっている前提」を疑い、新しい政策提案ができる人材として養成しようとするものである。

ACTIVITY

活動報告1

2020/01/24

 授業科目「社会フィールドワーク」として実施した取り組み内容を順に紹介していきたいと思います。
 まずは、研修で最初に訪問した真庭市についての活動報告をさせていただきます。
 真庭市は、「SDGs未来都市」(全国29都市)、「環境モデル都市」などに選定されており、木質バイオマス活用の先進地とされています。最初に、2011年に建設された真庭市役所本庁舎を見学しました。庁舎内では、地元木材がふんだんに活用されていました(写真1)。そして、木質ペレット?チップボイラーによる熱交換によって、冷暖房が実施されていました。化石燃料によるエアコンの冷房ではなく、地元地域資源である木材による冷房を実感することとなりました。次には、日本最初とされるCLT(直交材)でつくられたバス停で、5層の直交材の状況を見ました(写真2)。CLT材はオーストリアなどで5階建てマンション(ウィーン郊外では25階建て)などに利用されており。建設期間を大幅に短縮できる建設材などとして世界的に注目されています。
 第2に、真庭市内で家庭系生ごみ、牛糞?水産系廃棄物、し尿?浄化槽汚泥などをメタン発酵し、メタンガスを発生させ電気と熱エネルギーを生産する、メタン発酵施設を見学しました。固形肥料化、消化液を水田、農地などに散布されています。生ごみは大規模焼却することが日本では常識的になっていますが、生ごみ、し尿?浄化槽汚泥の再生可能エネルギー利用は注目されます。
 第3に、大規模な木質バイオマスの発電所を見学しました(写真3)。海岸部に大型木質バイオマス発電所はたくさん建設され、「石油に代わってパームやしなどを輸入するようになった」と問題となっています。本来の木質バイオマスボイラーは「木を燃やして熱エネルギーにする」ことが基本なのですが、真庭市での大型木質バイオマス発電所は、将来的にわたって間伐材が供給できるかどうかの問題状況を木材運搬トラックの多さから垣間見ることができました。大型木質バイオマス発電所の余熱利用としてCLT材を生産している工場も見ました。
 真庭市から西粟倉村への移動しながら、美作市の巨大なメガソーラーの建築中の様子も見学しました(写真4)。このメガソーラーは国内最大258MW(2019年8月段階)であり、パシフィコ?エナジーが設置するものです。本来、太陽光の恵みは、その地域に住み人々が享受されるべきものだといえますが、外資、国内大資本による一方的な利用による問題を考えるには格好の調査見学だといえます。

写真1:庁舎内の様子

写真2:市庁舎前のCLTのバス停

写真3:バイオマス発電所(外観)

写真4:建設中のメガソーラー施設

活動報告2

2020/01/24

写真5:担当者からのヒアリングの様子

 今回の活動報告は、研修旅行の二日目に訪問した西粟倉村(にしあわくらそん)でのヒアリング実施内容です。
 西粟倉村は、2013年に「環境モデル都市」に選ばれ、次の年に「バイオマス産業都市」の認定をうけました。私たちは、市の施設で、まず西粟倉村の担当者からヒアリング調査を行いました(写真5)。合併を拒否した西粟倉村は、将来ビジョンとして、「百年の森構想」を打ち出しました。「地域経済の活性化には地域資源を利活用することが最重要」との認識がこの構想にはあります。従来型の地域経済の活性化は「企業誘致による外来型開発を中心」に置かれています。外来型開発が中心の考え方のなかで、新しい地域経済を構築する考えとして「百年の森構想」があります。
 地元森林資源としての地域資源を徹底的に利活用することで地域経済の活性化をはかることです。木材の市場中心販売からの転換です。地元で原木加工、製材所などをつくって、木材を販売するほうが地元へ資金が循環するようになります。B材、C材などの間伐材も積極的に搬出し、村内の木質バイオマス薪ボイラー、チップボイラーでの熱エネルギー供給につなげています。
 ローカルベンチャーでは、移住定住促進、小さな行政を進める、「関係人口」の拡大などを進めています。従来、地方自治体が定住促進、地域での雇用増加を政策的に進めていますが、西粟倉村では、ローカルベンチャーが事業計画を作成し、地域で事業を起こしており、民間でやるべきことと行政がやるべきことをうまく区別していると考えられました。

活動報告3

2020/01/24

 3回目の活動報告は、現場での研修報告です。
 私たちは、西粟倉村での「環境モデル都市」での実際の事業について、取り組みを現場でみることができました。地域資源である間伐材を利用したチップでの木質バイオマスボイラーによる、地域熱供給の第1期工事の状況をみました。行きと帰りの2本の熱供給パイプが熱供給先である役場、子供館、老人保健施設まで配管されていました(写真6)。
 その次に見たのは、ローカルベンチャーの「森の学校」です(写真7)。ここで薪を生産しており、含水率の検査(薪の中に水分があまりにも多いと失火などのトラブルとなります)も行いながら薪を出荷しています。出荷された薪は、村内の温泉施設での薪ボイラーの燃料として活躍していました。「エネルギーの地産地消」を実体験できました。
 西粟倉村は中山間地であり、森林資源が豊富であるとともに、1966年から小水力発電も行われていました。2004年JAから村に移管され、発電出力は280kWで、村の必要電力の20~25%をまかなえる量になっており、FITで全量を中国電力に売電しています。村の自然エネルギーによる地域資源の利活用はミニ水力発電が出発点といえます。
 三日目の昼からは、西粟倉村のローカルベンチャーであるエーゼロのある廃校になった小学校に入居しているベンチャー企業を調査見学しました(写真8)。廃熱を利用することによって中山間地でウナギの養殖を小学校の体育館で行っていました(写真9)。この会社は、「森のウナギ」として全国的にも認められています。はじめは、ウナギの出荷だけであったのが、ウナギをさばいて、蒲焼にし、真空冷凍パックにして出荷し、地域内での雇用とお金を循環させています。森の学校のほかに、帽子屋さん、レストラン、お酒の訪問販売などのベンチャー企業が集積しています。

写真6:地域熱供給のための熱供給パイプの敷設工事の状況

写真7:「森の学校」、これから説明を受けるところ

写真8:旧小学校内を見学して回るところ

写真9:旧小学校の体育館を利用して行われているウナギ養殖

写真9-2:旧小学校前で撮影

活動報告4

2020/01/24

写真10:温水プールへの熱エネルギー供給施設前にて

 第4回目の活動報告は、鳥取県智頭町の智頭石油を訪問した際の研修内容です。
 智頭石油はガソリンスタンドを経営しています。なぜ化石燃料を扱っている会社を訪問したのかと言うと、化石燃料の売買をしている業態のところに、社内にグリーンステーション課を設け、新しい事業に取り組み始めたからです。薪の自動割り機械を導入し、オーストリアの薪ボイラーを利用して、温水プールへの熱エネルギーを供給したりしています(写真10)。
 米井康史氏から、智頭町は中山間地で森林資源が豊富にあり、智頭石油の前進は林業を営んでいた話を伺いました。創業者米井六郎氏は、自動車社会の到来でガソリンスタンド経営をはじめました。現在の社長である米井哲郎氏は、環境問題やエネルギーの多様化に対応し、地域の緑豊かな山を「新たな油田」とし、間伐材を利用した「バイオマス燃料」の生産と流通も行っています。地域資源である森林を再生可能エネルギーの可能性を拓いていく社の実践に、感心したものです。智頭石油をあとにし、鳥取の山中から神戸に移動しました。

活動報告5

2020/01/27

 5回目の活動報告は、神戸と宝塚で実施した研修内容です。私たちは、鳥取から神戸市三宮に移動して、自然エネルギーによる創エネ、省エネ、新電力会社を展開し、売上高を急激に増加させているシン?エナジーの本社を訪問し、ドイツ出張中の社長に代わり、専務の伊藤靖氏から社の取り組み内容を聞きました。(写真11)
 地球温暖化をうけ化石燃料に頼ったエネルギー生産の限界を踏まえ、シン?エナジーは、太陽光発電、水力発電、地熱発電、風力発電、木質バイオマス発電を行っています。注目は、森林資源を利活用するバイオマスガス発電の展開です。
 次に宝塚市へ移動し、すみれ発電による太陽光発電をするNPOの実践の報告を聞いたうえで、実際の太陽光発電、ソーラーシェアリングの現場を見学しました(写真12)。すみれ発電は東日本大震災による福島第一原子力発電所事故から「再生可能エネルギーでまちづくりを行ってほしい」との要望を宝塚市長、市議会に提出し、自らもNPOをつくり市民発電所を建設しています。ソーラーシェアリングでは、太陽光パネルの下で、市民農園を展開しています。
 今回の活動によって、地域資源を利活用することで、自然エネルギーを生産すると同時に、地域を活性化させている実践を踏まえることができました。化石燃料に頼った地域経済から、自然エネルギー中心の脱炭素社会に取り組む地方自治体の存在を知りました。「高度成長型の外来型地域開発」の延長線上での発想ではなく、地域資源を利活用することで地域の雇用などを増加させ、再生可能エネルギー中心を構築できる可能性を直接の現場から踏まえることができました。

写真11:シン?エナジー社内

写真12:ソーラーシェアリング

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