特設サイト第56回 漢方処方解説(23)消風散

今回取り上げる処方は、消風散(しょうふうさん)です。
湿疹や皮膚炎に用いる代表的な処方で、患部の熱感と赤みが強く、痒(かゆ)みがあり、分泌物も多く、かさぶたもできてきているような状態に用いられます。
医史学や薬史学の研究者によれば、「痒み」すなわち「掻痒(そうよう)」という熟語は宋の時代にできたものであるが、そのもとは隋代(581~618年)に「邪が皮膚に客し、風が掻けば即ち痒し」と考えられた病理観によるものであり、それが唐(618~907年)の時代に「風掻痒」となった説明されています。ここから「風」の字が省略されて「掻痒」となったとされ、消風散という名も「風」を消散させることを目的としたものだと考えられています。

構成生薬は多く、当帰(とうき)、地黄(じおう)、防風(ぼうふう)、蝉退(せんたい)、知母(ちも)、苦参(くじん)、胡麻(ごま)、荊芥(けいがい)、蒼朮(そうじゅつ)、牛蒡子(ごぼうし)、石膏(せっこう)、甘草(かんぞう)、木通(もくつう)の13種からなる処方です。

荊芥(けいがい)

荊芥(けいがい)

防風(ぼうふう)

防風(ぼうふう)

蝉退(せんたい)

蝉退(せんたい)

牛蒡子(ごぼうし)

牛蒡子(ごぼうし)

「痒み」のもととなる「風」を取り去る生薬を「祛(去)風薬(きょふうやく)」と呼びますが、消風散の構成生薬の中では、荊芥、防風、蝉退、牛蒡子がそれに当たります。
興味深いのは、蝉退(せんたい)でしょうか。「セミがしりぞく」という漢字が示すように、いわゆる「セミの抜け殻」です。日本薬局方には収載されておりませんが、日本薬局方外生薬規格という公定書により規定されており、スジアカゼミやミンミンゼミ、コマゼミ、ホソヒグラシ、ニイニイゼミまたはそれらの同属動物の幼虫の抜け殻を用います。
また、熱感をとる生薬、清熱薬(せいねつやく)として、石膏や知母、苦参があげられ、皮膚の炎症を抑える作用をもちます。さらに、水分代謝を調節する生薬として蒼朮や木通が配合され、不足した血を補う生薬として当帰や地黄、胡麻が配合されています。

適応症としては、原典である「外科正宗(げかせいそう、1617年/明の外科医?陳実功の著)」においては蕁麻疹に有効であるような表現がなされ、また「医宗金鑑(いそうきんかん、1742年/清の乾隆帝の命によって刊行)」には「痒みが強く、爪で掻くので、分泌湯物が出て、血も混じっている状態」と思われ、アトピー性皮膚炎を彷彿とさせる用途が記されています。
わが国の漢方エキス製剤には、適応症としてアトピー性皮膚炎が記載されているものはないのですが、消風散は実臨床においてアトピー性皮膚炎治療の第一選択薬に挙げられるほどになっています。
私自身もその効果を実感している一人ですが、残念ながら、その作用を科学的に十分理解するには至っていないことも知る一人でもあります。

漢方薬を効果的、かつ安全に使うには、まだまだ研究が必要です。

(2019年2月27日)

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