特設サイト第68回 漢方処方解説(32)苓甘姜味辛夏仁湯

今回取り上げる処方は、苓甘姜味辛夏仁湯(りょうかんきょうみしんげにんとう)です。

長くてまるで念仏のような処方名は、構成生薬から一文字ずつ取ったものです。漢方薬の中には、配合されている生薬から名付けられたものがいくつかあります。このコラムで取り上げた大黄甘草湯(だいおうかんぞうとう)や麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)などは、構成生薬の数も少なく、そのすべてを記載できたのでしょうが、本処方のように七味もあると、自ずと一文字ずつに省略するしかなかったのかと思います。構成生薬は、茯苓(ぶくりょう)、甘草(かんぞう)、乾姜(かんきょう)、五味子(ごみし)、細辛(さいしん)、半夏(はんげ)、杏仁(きょうにん)の7つで、花粉症や気管支喘息に用いられています。

  • 苓甘姜味辛夏仁
    苓甘姜味辛夏仁湯

この処方は、小青竜湯(しょうせいりゅうとう)の「裏の薬」と言われ、「気管支炎や気管支喘息などで小青竜湯を用いると、胃腸障害を引き起こしてしまうという虚弱者に用いる」とされており、いわゆる「麻黄(まおう)による副作用」を避けるものと考えられています。構成生薬のうち、甘草、乾姜、細辛、五味子、半夏は小青竜湯と共通ですし、小青竜湯の麻黄、桂皮(けいひ)、芍薬(しゃくやく)に代えて、茯苓、杏仁が入っています。

漢方薬における生薬の組合せを現代科学的に理解することは、非常に難しいものです。古代中国において、当時の自然科学思想のもと、いろいろな処方が生み出されたでしょうし、基本となる処方の構成生薬を替えることで、さらに多くの処方を生みだしてきたと考えられます。
今回の処方の成り立ちにも根拠があり、小青竜湯を服用した後の病状の変化に応じて、苓桂味甘湯(りょうけいみかんとう)など数種の処方を経て、苓甘杏味辛夏仁湯に達し、さらに大黄を加えた処方にまで展開されたことが「金匱要略(きんきようりゃく)」という漢の時代の処方集に記されています。この中でも、苓甘杏味辛夏仁湯を用いる病態では、麻黄の適応となる病態に類似するものの、麻黄を用いると手足厥冷(※1)といった状態に陥るため、麻黄を除外した処方となったと説明されていますが、その理由は現在考えられているような麻黄による胃腸障害の回避ではないようです。
麻黄による胃腸障害を理由とした運用法はどうやら日本独自のもののようであり、また近年のことであるように思います。その解釈と実践については、また詳しく調べてみないといけませんが、漢方薬らしさを感じます。
漢方薬の科学的解明の道は、果てしないなと思う一幕でもあります。

(※1)手足厥冷(てあしけつれい):はなはだしく手足が冷えることを指す漢方用語。

(2020年3月3日)

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